今回は競売の3点セットのうち「現況調査報告書」の読み方を詳しく解説します。
前回解説した「物件明細書」同様、こちらも重要な情報満載なので、読むべきポイントをしっかり把握しておきましょう。
特に「関係人の陳述等」と「執行官の意見」は現況調査報告書で一番重要かつ、読んでいて面白い部分です。
↓「物件明細書」の読み方はこちら↓
現況調査報告書
現況調査報告書には、裁判所の執行官が競売物件を調査(関係者へのヒアリング等)した結果がまとめられています。
競売物件の現況調査を行ったり、入札・開札の手続を主宰したりする裁判所職員です。強制執行になった際、現場で占有者や残置物を排除するのも執行官の仕事です。給料は歩合制で、競売件数が多い裁判所の執行官の年収は数千万円にもなるそうです(すごい!)
現況調査報告書の構成は以下の通りです。
- 物件目録
- 土地・建物について
- 関係人の陳述等
- 執行官の意見
- 図面や現地の写真
それぞれの項目について、見るべきポイントを解説していきます。
物件目録
現況調査報告書の先頭には物件目録が再掲されています。
内容は表紙のものと全く同じなので読み飛ばしてOK!
土地・建物について
物件の住居表示、土地や建物の占有者及び占有状況などが載っています。
いろいろ書かれていますが特に重要なところを解説します。
住居表示
ここに住所が書かれている場合、地番と住所が異なる物件です。
グーグルマップで物件所在地を調べる際は、物件目録に記載されている地番ではなく、ここに記載されている住所で検索しましょう。(地番ではヒットしません)
ここが「住居表示未実施」となっている場合、物件目録の地番で検索してみましょう。
もしヒットしない場合は地番の大字or字(あざ)部分を消して検索するとヒットするかもしれません。
例:千葉県野田市船形字宮ノ下○○番○ → 千葉県野田市船形○○番○
それでもヒットしなかった場合はブルーマップを使うか、添付資料にある地図からグーグルマップとにらめっこして場所を特定することになります。
以前はどの物件でも地番=住所でしたが、昭和37年5月に住所をわかりやすくするための法律「住居表示に関する法律」が施行され、全国的に新しい住居表示が実施されるようになりました。現在は住居表示が実施された地域と未実施の地域が混在しています。
管理費・修繕積立金・地代・及びその滞納額
区分マンション場合はここに管理費や修繕積立金の額が、借地の場合は地代が記載されています。
また、債務者が管理費などを滞納していた場合はその滞納額も記載されています。
債務者の滞納は買受人に承継されるため、マンションや借地権の物件に入札する際は必ず滞納額を確認するようにしましょう。
占有者及び占有状況
空き家の場合
建物がすでに空き家になっている場合、ここに「本建物を居宅(空き家)として使用し、占有している」と記載されています。
空き家であれば債務者はすでに引っ越し済みであり退去の交渉が不要になります。
ただし、空き家の物件が良いとは限りません。
空き家には債務者と連絡が取れない可能性があるというリスクがあります。
債務者と連絡が取れないと以下のようなデメリットがあります。
・鍵が手に入らない
債務者と連絡が取れるなら鍵を譲り受けることも可能ですが、連絡が取れないと鍵の在処が分からないため建物の開錠ができません。
債務者から鍵を譲り受けることができなかった場合、手間もお金もかかりますが、裁判所に引渡命令と強制執行を申立て、断行時に執行官立会のもと開錠してもらうのが正式な流れとなります。
なお、鍵屋を呼んで勝手に開錠してしまうと、裁判所から引渡命令を出してもらえなくなるのでご注意ください。
後日、債務者からクレームが入って面倒なことになる可能性もあります。
・建物内の残置物を勝手に処分できない
競売の対象はあくまで土地と建物のみなので、建物内に残されている家具などの残置物に関しては競売後も債務者の所有物ということになります。
そのため、債務者の許可なく残置物を勝手に処分することはできません。
債務者と連絡が取れるなら、残置物の所有権を放棄する内容の覚書に署名捺印してもらえば、残置物を処分することが可能です。
交渉次第では債務者の負担で残置物を撤去してもらえるかもしれません。
債務者と連絡が取れなかったり協力が得られなかったりした場合は、やはり強制執行で残置物を撤去するのが正式な流れとなります。
強制執行をする場合、残置物撤去のための費用、運送業者等の手配、執行当日の人手等の費用、保管のための一時倉庫の費用等がかかります。
執行費用は残置物の量にもよりますが数十万程度は覚悟しましょう。
なお、残置物を勝手に処分して債務者から300万を請求された事例もあるので、強制執行が面倒だからといって勝手に処分するのはやめておいた方がいいです。
・建物に関係する書類が手に入らない
債務者と連絡が取れるなら、建築時の「建築確認証」「検査済証」「建物設計図」といった書類を譲り受けることが可能です。
ただ、これらの書類に関しては無くても特段困ることはないのでそこまで気にする必要はありません。
・不具合箇所のヒアリングができない
物件の不具合箇所についてはそこに住んでいた債務者が一番詳しいはずなので、債務者と連絡が取れるなら修繕が必要な個所を教えてもらうことができます。
債務者からヒアリングができない場合、修繕箇所は自力で探すことになります。
こんな感じで、債務者と連絡が取れないといろいろ困ったことになります。
初心者の方は空き家だと「退去交渉が要らなくてラッキー!」と思いがちですが、実は空き家の物件が一番手間がかかったりします。
とりあえず、物件を落札した後は、裁判所の事件記録から債務者本人や関係者の住所・連絡先を探し出して、何としても債務者と連絡を取るように努めましょう。
占有者がいる場合
アパートなど、賃借人が住んでいる場合はここに賃貸借契約の内容(占有範囲・占有開始時期・賃料・敷金・共益費など)が詳細に記載されています。
特約がある場合、特約の内容も書かれています。
賃貸物件の場合、通常ここに記載されている条件をそのまま引き継ぐことになるので、月いくらの家賃が入るかなど、契約内容はよくチェックしておきましょう。
その他の事項
競売物件の中には土地建物に関する情報を「その他の事項」で補足しているものもあります。
わざわざ補足していることから重要な情報が書かれていることが多いので一言一句漏らさずに読むようにしましょう。
関係人の陳述等
関係人の陳述等には、執行官が債務者や占有者などの関係者にヒアリングした内容が記載されています。
建物の不具合箇所や不満に感じている点、境界に関する争いごとなど関係者の生の声が書かれているため非常に参考になります。
執行官が訪ねてきたことで初めて自宅が競売にかけられたことを知ってショックを受ける奥さん、お互いを罵り合う大家と賃借人、意味不明な理屈で因縁をつけてくる近隣住民など、様々な人物が登場します。
また、ここの陳述内容から占有者の人柄を推察することもできます。
占有者が執行官に対して真面目に回答していれば、落札後の交渉もスムーズにいく可能性が高いです。
逆に、執行官に対して非協力的な態度をとっている占有者の場合、落札後も揉める可能性大です。
記載内容から占有者に問題があり、落札後に交渉が難航すると予想された場合は、入札前に占有者と直接会って話をするか、入札を見送ることも考えましょう。
逆にヤバい奴が占有している物件をあえて入札することでライバルを減らせるかもしれません。(自己責任でお願いします・・・)
執行官の意見
執行官の意見には、執行官が物件を調査した結果分かったことや所見がまとめられています。
関係人の陳述では自身が不利になるようなことはあまり言わないので、第三者の執行官の意見は非常に参考になります。
執行官はここを通じて、3点セットを読んでいる人にメッセージを送っています。
例えばちょっとおかしな人がいた場合、「陳述には疑わしき点がある」「正常と思われない反応がある」など『この人ちょっとヤバいです!』という信号を送ってきます。
そういった執行官からの信号を見落とさないようにしましょう。
また、物件で不自然死(自殺、他殺、孤独死)があった場合もここに記載されます。
基本的に「執行官の意見」に長々と文章が書かれている物件は面倒なことが多いです。
執行官の意見と関係人の陳述は3点セットの中でも特に重要なポイントなので穴が開くほど読み込むようにしましょう。
図面や現地の写真
現況調査報告書の最後には、物件の公図・地積測量図・建物平面図・間取り・現況写真が添付されています。
図面や写真で確認すべきポイントは次の通りです。
・間取り
部屋の数・広さは十分か?
バストイレは別か?
戸建はファミリー層が多いのである程度の広さを求められる。
アパートは地域によって若干異なるが、1DKや2DKに人気がある傾向。
1Rはよほど立地が良いか学生街でもないと客付けに苦労する。
・駐車場の有無
地方戸建なら必須といってもいい。
アパートなら駅近or学生街or近隣に月極駐車場があるなら敷地内に無くても検討の余地あり。
・外観
外観のぱっと見の印象は結構大事。
多少古い感じがしても大丈夫だが、あまりにオンボロなのは避けるべき。
外壁の塗装費用は結構かかる(床面積100平米の戸建で100万円前後)ので、できれば所有期間中に塗装しないで売り抜けられるものが良い。
アパート共用部の鉄部は多少錆びていても塗装をすれば少額(10万円前後)できれいにできる。
なお、室内の印象は修繕次第で何とでもなる。
・雨漏りの有無
雨漏りがある場合、天井を撮影した写真が含まれている。
天井のシミの具合を見て雨漏りの程度をチェックする。
木造住宅の場合、古いものは大抵雨漏りしている。
横殴りの雨のときだけ雨漏りするなら大したことはない。
天井が崩落しているものは原因の特定が必要。
修繕費用は数十万~100万円以上かかることも。
・水回りの設備
キッチンや風呂など水回りの設備は特にお金がかかるので注意。
傷み具合がひどいようなら交換費用も計算に入れる。
バランス釜は不人気。
ファミリーの場合は追い炊き機能があった方が好まれる。
プロパンであればガス会社に設備を無償貸与してもらえる可能性がある。
・クロスや床の具合
クロスや床の汚れや傷み具合を見て、修繕が必要かどうかをチェックする。
クロスの張替えは6畳天井込みで3万円前後。
クッションフロアの張替えも6畳で3万円前後。
汚れが少なければハウスクリーニングだけでもきれいになる。
・室内の動産
動産の量を見て、もし実費で撤去することになった場合の費用を計算する。
2トントラックで5~10万円かかる。
また、家具やモノから家庭内の状況を推察する。(お年寄りか、若者か、小さい子供がいるか、反社を匂わせるようなものがないか等)
また、写真撮影が事前に知らされているのに整理整頓をせずにいる占有者はだらしないことが多い。
競売は基本的に内見ができないので現況調査報告書の写真でしか室内の状況を把握できません。
執行官の意見や評価書などで物件の不具合について記載されてはいますが、やはり写真で判断できることは多いです。
競売不動産投資をやっていくなら、僅かな写真から建物や占有者の状況を推し量れる力を身につけましょう。
なお、初心者の方はゴミ屋敷の写真にドン引きするかもしれませんが、表面上の汚れや傷みであれば、ゴミの撤去・クロス張替え・木部塗装・ハウスクリーニングなどを実施すれば費用もそこまでかからず見違えるほどきれいになるのでご安心ください。
以下は私が実際に手掛けた物件のBefore・Afterです。
Before
After
いかがでしょうか?
上記の例では、クロスの張替え、フロアタイルの上張り、畳の表替え、木部の塗装、ハウスクリーニングぐらいしかしていませんが、同じ部屋とは思えないほどきれいになったと思います。
ちなみに、かかった費用は総額で50万円ほどでした。
(風呂・トイレ・廊下なども全部含めてのリフォーム総額です)
さいごに
ここまでが現況調査報告書の内容になります。
何度も言いますが、特に「関係人の陳述等」と「執行官の意見」には重要な情報が書かれているので特に注意して読むようにしましょう。
また、競売では関係者の陳述や現況写真から建物や占有者の状況を推し量る力が大事になります。
危険な信号を察知したら、入札前に懸念事項を調査しに行くか、入札を避けることも考えましょう。
↓最後にいつものオススメ本の紹介です↓
今回の記事を読んで、占有者との退去交渉に不安を覚えた方に是非読んでもらいたい一冊です。
「賃貸借契約書とは別人が占有していた場合」「サブリース物件を引き継いだ場合」「賃借人が未成年だった場合」「賃借人が死亡した場合」「連帯保証人に請求したい場合」など様々なケースを想定して、未払賃料の回収や建物の明け渡しを具体的にどのように実現するのかが書かれています。
一つ難点をあげるとすると、法律書特有のまどろっこしい表現で書かれているため慣れていない方には少し読みづらいという点です。
ただ、不動産関連の基本的な用語を押さえていれば理解できないというほどではありませんし、内容は非常に実践的でためになるものばかりです。
不動産投資において知識は武器にも盾にもなります。
是非、この本を読んで退去交渉の不安を解消しておきましょう!
次回は3点セットのラスト「評価書」の読み方を解説します。
お楽しみに!
いつも有益な情報をありがとうございます。
このビフォーアフターの作業は、おやつさんはどれくらいまでご自分でされたんですか?
クロスの張り替えなどはご自分でされているのでしょうか?
全て業者にお任せですか?
コメントありがとうございます!
写真のリフォームは全部業者にお任せしました
更新お疲れ様です
調査書の内容は執行官のやる気によって結構左右されるそうでその辺は運に任せるしかなさそうですね
今回の記事と直接関係ないですが質問です
私が勉強した範囲では落札後の残金納付の際に残金を口座へ振り込んだ後は原則として裁判所に行かなければならないとされています
はじめての競売には郵送で対応可能な裁判所もあります程度の記述で留まっていますが実際郵送で対応可能な裁判所ってどれくらいあるのでしょうか
出向くのが基本だとすると自分にとってかなりハードルが上がるため現場を知るおやつさんの意見を伺いたいです
宜しくお願いします
コメントありがとうございます!
裁判所に出向いた方がスムーズに手続きできますが、郵送だけでも全ての手続きを済ませることは可能です。
実際私も一度も裁判所へ行かずに郵送だけで済ませたことはあります。
ただ、裁判所ごとにルールが微妙に違うこともあるので個別に確認した方が良いと思います。
更新お疲れ様です。
私は先日、とある入札に参加しましたが、落札額は
私の入れた金額の倍以上でした…
ここ最近、981で落札結果をマメに見ていますが、比較的
まともな物件は基準価格の1.5~3倍程度で落札されている
と感じます。
そこで質問ですが、
・基準価格を大幅に上回る金額で入札するの、怖くないですか?
・おやつさんが過去に落札した物件で、2番手との乖離が
一番あったのはどれくらいの金額でしたか?
・今後「値付けの極意」みたいなの、記事で書かれますか?
コメントありがとうございます!
落札できなかったのは残念です。
そうですね、基準価額の1.5倍~3倍ぐらいが普通だと思います。
私の場合は利回りや売却価格を基準に入札金額を決めているので基準価を大幅に上回ることがあっても怖くはないです。(基準価は参考程度)
2番手との乖離が一番大きかったのは分かっている範囲で200万円ぐらいだったと思います。私が1000万円、2番手800万円ぐらいだったかと。
今後「入札金額の決め方」についても記事にする予定です。
>私が1000万円、2番手800万円ぐらいだったかと。
ある程度の金額差が出るのは仕方ないとはいえ、痺れますね…
競売は本人の性格の向き不向きもあるなぁと思った次第です。
またよろしくお願いします。
入札興味なくても関係人の陳述とか執行官の意見のところとか読んでるだけでおもしろい
更新待ってました、ありがとうございます!
Before/After の写真と修繕費を載せてありますが、慣れてくると3点セットの写真チェック時点でも概算費用は想定できるものでしょうか?
コメントありがとうございます!
大雑把ですけど大体想定できますねぇ
なるほど、やはりある程度の想定はできるものなんですね。。。
ご回答ありがとうございました!
更新おつかれさまです!
↑でぶんざいさんが書いていた通り、いい物件はもれなく基準価額より相当高い値が付きますね。
おやつさんの言うように、予算をブレずに根気強く入札を続けていれば利回り30%台で落札できる物件に出会えるのでしょうか?
おやつさんが新潟の460万円、利回り37%の物件を落札した時は入札者数や基準価額はどんなものだったのでしょう?
その落札額は大きなリスクがあったか特別売却としか思えないのですが・・
過去データを見るほどに希望が失われていきます。どうか希望をお願いします。
取れる時はなぜこんな価格で取れたのか分からないぐらいの価格で取れますね。
大体10~20件に1回ですが…
最初に落札した新潟の物件は基準価が250万円ぐらいだったかと思います。
入札者数は忘れましたが次順位は430万円ぐらいでした。
全空だったので確かにリスクはありましたが建物に重大な瑕疵はありませんでしたし、特別売却でもありませんでした。
最近でも根気強く入札を続けていればこういった物件を落札することは可能です。
返信ありがとうございます!
根気強く入札を続ければきっといいことあると、歯を食いしばって信じます!
こんにちは。
ごみの撤去も同じリフォームの業者に完全におまかせなんでしょうか?
こんにちは!
基本はゴミの撤去もリフォームの業者にお願いしています。
あまりにも量が多いときはゴミ撤去単体で相見積もりをとったりもしますが。
なるほど!ご返信ありがとうございます!
こんにちは、更新お疲れ様です。
陳述書の部分で俄然興味を惹かれてしまい、まだ不動産の勉強をし始めてから1ヶ月くらいで3点セットに触れるのはもう少し後にしようと思っていたのですが、思わずいろんな3点セットをDLして見てしまいました