競売3点セットの徹底解説(全3回)も今回でラストです。
今回は3点セットの最後の資料、「評価書」の読み方について解説します。
評価書には簡潔に言うと「売却基準価額をどうやって決めたのか」が書かれています。
複雑そうな計算式がびっしり書かれており、初心者の方はとっつきにくい印象を受けるかもしれません。
ですが、重要なポイントさえ押さえていれば、そこまで難しいものではないのでご安心ください。
評価額の計算過程から物件の抱える問題点を再確認することもできるので、入札をするつもりなら評価書の読み方は是非マスターしておきましょう。
評価書
評価書には競売物件の評価額とその計算過程が記載されています。
評価額の計算をするのは裁判所から依頼された不動産鑑定士です。
評価書の構成は以下の通り。
- 評価額
- 評価の条件
- 目的物件
- 目的物件の位置・環境等
- 評価額の計算方法
- 参考価格資料
それぞれの項目について、特に重要なポイントに絞って解説していきます。
1.評価額
評価書の最初には、不動産鑑定士が評価した競売物件の評価額が載っています。
通常、競売の評価額は実勢価格(一般の不動産相場)よりだいぶ低く設定されています。
「一括価格」は対象物件全体の評価額、「内訳価格」は物件番号ごとの評価額です。
競売の対象となる土地と建物を合計した評価額です。
これが競売の売却基準価額となります。
競売の対象になっている土地・建物の1筆ごとの評価額です。
内訳価格の合計が一括価格になります。
2.評価の条件
ここは毎回お決まりの文言が書かれているだけなので読み飛ばしてOKです。
3.目的物件
競売の対象になっている土地・建物の基本情報がまとめられています。
「○○記載の通り」といった感じで省略している裁判所も多いです。
基本的にはここまでの「物件明細書」や「現況調査報告書」の中ですでに出てきている情報のはずですが、特記事項が書かれていれば一通り目を通しておきましょう。
もし見落としがあった場合、ここで気付くことができます。
4.目的物件の位置・環境等
「土地の概況及び利用状況等」と「建物の概況及び利用状況等」に分かれています。
この辺から確認すべき箇所が増えてくるので、それぞれの確認ポイントを解説します。
土地の概況及び利用状況等
「土地の概況及び利用状況等」では次の点を確認します。
①位置・交通
- 最寄り駅はどこか?
- どれぐらい離れているか?
②主な公法上の規制等
- 都市計画区分が市街化調整区域ではないか?
- 建ぺい率や容積率をオーバーしていないか?(計算方法は下記リンクを参照)
- 市街化調整区域や建ぺい率・容積率オーバーの物件は融資を受けられない金融機関が多く、売却しづらい物件となります。
- 何かしら問題がある場合はこの後の特記事項に記載されるのでそちらで確認してもOKです。
③接面道路の状況
- 接道義務を満たしているか?(詳しくは下記リンクを参照)
- 道路の間口や幅員の広さは十分か?
- セットバックは必要か?(詳しくは下記リンクを参照)
- 接道義務を満たしていない場合、再建築不可となり不動産価値が大幅に下がります。
- セットバックが必要な場合、再建築する際に敷地を少し後退させなければいけません。
- 何かしら問題がある場合はこの後の特記事項に記載されるのでそちらで確認してもOKです。
④供給処理施設
- 上下水道及びガス配管があるか?
- 下水道がなしとなっている場合、浄化槽か?汲み取り式か?
- 上水道なしの場合、井戸水をポンプで汲み上げていることが多いです。
- ガス配管なしはプロパンガスを使っています。交渉次第でガス会社に給湯器・エアコンなどを無償貸与してもらえることもあります。
- 配管が前面道路まで引き込み済の場合、工事費用を負担すれば引き込み可能です。
- 浄化槽の場合、点検や清掃費用がかかります。汲み取り式は不人気です。
⑤特記事項
- ここは必ず確認すること!
- 再建築不可や土地に何かしらの懸念点がある場合、ここに記載される。
- 逆に市街化調整区域でも再建築可能なパターンの場合、その旨が書かれていることもある。
建物の概況及び利用状況等
「建物の概況及び利用状況等」では次の点を確認します。
①建築年月日
- 981.jpの物件概要ページ等にも載っているが、念のため確認しておく。
- 「経済的残存耐用年数」は評価額の算出に使っているだけなので参考程度に。
②特記事項
- 土地同様、ここも必ず確認しておく!
- 建蔽率・容積率オーバーや未登記であるなど、建物に懸念点があればここに記載される。
5.評価額の計算方法
ここに評価額を算出するまでの計算過程が詳しく書かれています。
評価書の中で最も重要な部分です。
評価額は基本的に「積算価格」と「収益価格」の2種類の評価方法を使って計算されます。
(物件の性質によっては積算価格のみの場合もあります)
積算価格の試算
積算価格とは、土地の価格と建物の残存価格をそれぞれ計算し、足し合わせたものです。
現在と同じ土地を購入し、その上に現在と同じ建物(築年数による減価修正込み)を建てる場合にかかる費用とも言い換えられます。
銀行が融資する際に、どれくらいの担保価値があるかを測る参考値にもなります。
なお、土地付き建物であっても算出の過程で「法定地上権」という文言が登場しますが、これは土地と建物それぞれの内訳を計算するために使っているだけなので特に気にする必要はありません。
収益価格の試算
収益価格とは、その物件が将来生み出すであろう純収益(家賃収入など)から算出される不動産価格です。
アパートなどの賃貸向けの物件で特に重視される指標です。
還元利回りやその他の補正などは不動産鑑定士の匙加減で設定されているので、参考程度に考えましょう。
評価額の判定
通常は積算価格と収益価格を算出した後、対象物件の性質を踏まえて「調整後の合計価格」を決定します。
(上の例の場合、収益不動産のため収益価格を重視しています)
その後、調整後の合計価格に「市場性修正」や「競売市場修正」がかけられて最終的な評価額となります。
評価額の計算過程はここを見ろ!
評価額の計算を読む上で重要なポイントは以下の3点です。
❶どこにマイナス補正がかかっているか?
評価額の計算過程では、様々なプラス要因とマイナス要因に対して補正をかけていますが、ここで重要なのは「マイナス補正」です。
マイナス補正を確認することで、物件の不利な点を知ることができます。
大抵はこれまでの3点セットに記載されている情報と被りますが、中には「前面道路の道幅が狭い」「土地の形状が悪い」といったここまでの資料に明記されていなかったマイナス補正がかけられていることがあります。
また、不利になる特記事項を見落としていた場合もここで気付くことがあります。
マイナス補正の理由を確認して、致命的な内容でないかを確認しておきましょう。
最後の「市場性修正」は特に重要です。
特段問題がなければ市場性修正は1.00となっているはずですが、何らかの問題を抱えている場合、1.00未満の値になります。
具体的な補正の理由は欄外に記載されています。(室内で不自然死があった等)
1.00未満になっている場合は必ず内容をチェックしましょう。
一方、「競売市場修正」は全ての競売物件にかけられるマイナス補正です。
0.6~0.7になっているのが普通なので、ここは特に気にしなくても大丈夫です。
(物件自体に問題があるわけではありません)
❷建付地価格はいくらか?
土地付き物件の場合、建付地価格でおおよその土地の評価を確認しましょう。
万一、建物がダメになっても土地は残るので最低保証の価値となります。
実勢価格より低めに評価されているので実際はもう少し高く売れます。
➌調整後の合計価格はいくらか?
市場性修正や競売市場修正をかける前の調整後の合計価格は入札金額を決めるのに参考になるのでチェックしておきましょう。(後日解説します)
修正をかける前でも実勢価格よりは低く評価されていることが多いです。
6.参考価格資料
直近の公示地価が載っているので参考程度に見ておきましょう。
裁判所によっては固定資産税評価額も記載されていることがあります。
国土交通省が全国に定めた地点を対象に、毎年発表する土地価格の指標です。とはいっても、実勢価格とはズレがあるので参考程度に。
固定資産税の計算をするため、市町村が定めた不動産評価額です。だいたい公示地価の7割程度になっています。
実勢価格・公示価格・固定資産税評価額の関係ホームセレクト不動産売却コラムより引用
さいごに
さて、全3回に渡って解説してきた3点セットの読み方ですが、いかがだったでしょうか?
「覚えることが多すぎて大変!」と思われたかもしれませんが、最初のうちはいわゆる「素直な物件」のみを狙うようにすれば大丈夫です。
初心者が狙うべき「素直な物件」は次のような物件です。
- 土地が所有権で持分100%のもの
- 債務者本人か賃借人が住んでいるもの
- 空き家であれば債務者と連絡がつくもの
- 重大な瑕疵(傾き・大きな雨漏り・シロアリなど)がないもの
- 特記事項にごちゃごちゃした記述がないもの
こういった物件であれば、3点セットの中身はスッキリしており、落札後に大怪我する可能性も低いです。
競売には建物に重大な瑕疵があるもの、権利関係が複雑なものなど、難ありの物件もたくさんありますが、あえてそんなものにトライする必要はありません。
競売には年間20000件以上も物件が流れてくるので、「素直な物件」だけに絞っても相当な数が入札対象になります。
「そんな良い物件ばかり入札してもライバルが多くて落札できないのでは?」と思われるかもしれませんが、地方・築古(20~30年程度)という条件であれば、特段問題がない物件でも格安で落札できることがあります。
これを書いている2021年現在でもそれは変わりません。
私自身、20件以上落札した今でも面倒な物件は避けるようにしています。
特に初心者のうちは、あえて怪我をしやすい悪球打ちなどせず、ド真ん中に来た球だけ振るようにしましょう。
まずはネットで借入可能額を調べてみましょう
競売や公売であっても金融機関から借り入れを受けることは可能です。
- いきなり金融機関に出向くのは気が引ける
- 忙しくてなかなか金融機関に相談に行けない
- 物件を探す前に自分が借りられる金額の目安を知りたい
といった方は、ネットで自分がいくら借りられるのかを調べられるINVASE(インベース)のバウチャー発行サービスがオススメです。
・INVASE(インベース)バウチャー発行サービス
https://investment.mogecheck.jp/lp/voucher/
バウチャーとは証明書や引換券などを指す英語で、INVASEでは「借入可能額証明書」を意味しています。
このサービスでは、個人の属性をもとにあなたの借入可能額と金利を教えてくれます。
各金融機関と連携しているため、精度は高いです。
競売では物件を落札できるかどうかは開札日までわかりません。また、立地や築年数は物件によって異なります。
そのため、物件に依存しない個人の属性による借入可能額がわかれば、自分がどこまでリスクを負えるかの目安となり、入札額を決める際の指標の一つになります。
バウチャー発行の手順
- トップページの「今すぐ始める」から無料のユーザー登録
- 生年月日、家族構成、職業、年収、預金額、現在の借入額などの情報を入力
- 条件に合えばすぐにバウチャーが発行され、借入可能額と金利が分かる
昨日今日、買いたいと思った物件が買えんで草
そこも、特記事項に……記されていましたが、建ぺい率オーバー……一つで売却基準価の4倍近くはヤバすぎ……
昨日買いたいなと、思った物件が売却基準価格の4倍近い値段で落札された……
ただ一つの建ぺい率オーバーでそうなるのかしら?……
そりゃ、競売は蓋を開けなきゃわからんわね wwwwww
3点セット解説お疲れさまでした!
おやつさんの経験を伺いたいのですが
・債務者が行方不明の物件を落札したことはありますか?
・行方不明かどうかは事前に管理会社などへのヒアリングでわかることなのでしょうか?
・債務者がいない場合、代理弁護士がついている可能性はどれくらいでしょうか?
矢継ぎ早にすみません。
・債務者が行方不明の物件を落札したことはありますか?
あります。
・行方不明かどうかは事前に管理会社などへのヒアリングでわかることなのでしょうか?
管理会社を通していたら分かるでしょうが、管理会社を通していない物件もたくさんあるのでそれだけでは分からないことが多いです。
3点セットに債務者と連絡がつかなかったと書かれていたり、現地調査で判明したり色々です。
・債務者がいない場合、代理弁護士がついている可能性はどれくらいでしょうか?
わかりません。
ただ、代理弁護士がついていれば3点セットにその旨が書かれているはずです。
いつも丁寧な対応ありがとうございます。
足使って現地調査してご近所さんに聞き込みが大切ということですね。
泥臭さにまさるものなしですね。
3点セットの解説助かります。
記事を読み返したり、981で気になった物件の3点セットを見ながら、目を養っていきたいです。
はじめまして おやつさん
いつも動画等拝見させていただき、楽しませて頂いております
とりあえず貯めた現金が300万円あり、
おやつさんのようにFIREを目指して勉強しようと思います
そこで質問ですが
初めのうちなので家賃収入を狙い、地方の戸建てを落札しようと考えておりますが、おやつさんは初めての物件にリフォーム代も含めて資産のどれくらいを投資しましたか?
·また、物件を初めて売却したのは購入してからどのくらい後ですか?
教えて頂けるとありがたいです
はじめまして!コメントありがとうございます
初めての物件は地方の築古アパート(全8戸)を競売で460万円で落札し、初期リフォームに50万円ほど使いました。
物件を初めて売却したのは4番目に購入したアパートでこれは2年未満で売却しました。
買値680万円・売値1700万円でしたが、個人名義だったので短期譲渡扱いになり税金でかなり持っていかれました。
丁寧なお返事ありがとうございます!
なるほど、50万円でアパートの部屋のリフォームが可能なんですね…
勝手な想像で申し訳ありませんが全部屋で50万ですよね?
短期譲渡でかなり…やはり税金が一番の敵なのですね
。
家賃収入である程度お金を貯めて、次の物件を買っていき、物件数を増やして、時期が来たら売却する
という流れであってますか?
たびたびの質問で申し訳ありません
また次のブログも楽しみにお待ちしております!
ぜひ勉強させて下さい!
50万円というのはあくまで初期リフォーム代で、その後所有期間中に発生した修繕費も合わせると総額で200万円ほどだったと思います。
ただ、保険が約100万円適用されたので、実費は100万円ほどです。
取得時にどの部屋も割ときれいに見えたので最初はあまりお金をかけませんでしたが、やはり築古のため住んでみないと分からない部分、
経年による修繕などが発生したため所有中の修繕費は結構かかかりました。
>家賃収入である程度お金を貯めて、次の物件を買っていき、物件数を増やして、時期が来たら売却するという流れであってますか?
その流れであってます。
愛知県南エスタミル出身のおやつさんにご質問なのですが、豊橋駅から徒歩5分の所にある固定資産評価額2000万円の物件(最近入居者が出て行った、築85年で庭に井戸があるボロ屋)の処分はどうするべきでしょうか?
更地にして地元の不動産屋で売りに出すのが一般的な解法だと思いますが、おやつさんだったらどうしますか?
予算は500万円が上限です。
ほぼ土地値で固定資産評価額2000万はかなり良い立地ですね。
普段私がやっている不動産投資ではそういった物件を扱わないのであまり詳しくはないのですが、更地にするのにもお金がかかるのでまずは「古屋あり」の土地として売却をかけるのが良いと思います。
更地にするのにかかる金額分、売却価格が下がるのが一般的ですが、もしかしたら家をそのまま使いたいという方も現れるかもしれません。
どちらにしろ初期費用がかからないので安心して売却に臨めると思います。
ご返信ありがとうございます。
耐震基準を満たしておらず、雨漏りしていて、羽蟻も湧いている状態なので、市に補助金申請をして解体してから売るほうが、手間分トータルで得できる気がしたのですが、まずはダメ元でそのまま売りに出したほうが良いということですね。
実際、地元の不動産からは売ってくれという手紙も来てますし(免許番号するら記載してない胡散臭い業者ですが)。
底地を騙されて0.7掛けで買い、当時1400万円だったようですが、古屋ありで売るなら何円が妥協ラインだと思いますか?
以下の物件です。
https://www.google.com/maps/place/%E3%80%92441-8023+%E6%84%9B%E7%9F%A5%E7%9C%8C%E8%B1%8A%E6%A9%8B%E5%B8%82%E5%85%AB%E9%80%9A%E7%94%BA%EF%BC%97%EF%BC%98/@34.7572587,137.3805915,3a,75y,13.17h,94.91t/data=!3m6!1e1!3m4!1sMitkuaqfDmbJzSD2h85X-Q!2e0!7i16384!8i8192!4m5!3m4!1s0x6004d210064b4363:0x5a387a4230c75710!8m2!3d34.7573655!4d137.3806191
迫真投資部のように詳細情報があった方が、ほかの読者様達の参考にもなると思うので、おやつさんの方で不都合がなければ、そのまま公開してください。
物件のストリートビュー拝見しました。
大通りに面していて周りにマンションも立ち並んでいる非常に良い立地ですね。
このエリアの相場は詳しくないので売却時の妥協ラインは分かりませんが、特定の業者とだけやりとりするのではなく一括査定サイトで複数社に査定してもらうのが良いと思います。
そうすれば大体の相場観が分かるので、安すぎる値段で売ってしまうリスクも減らせるはずです。
一括査定サイトを使うという発想はありませんでした。
物凄く為になるアドバイスに、心より感謝いたします。
ではその通りにやってみて、売却できたら売値と共にご報告させていただきます。
個人ブログでYMYLは、どんなに良質で価値のある情報を書いても上位表示されない現状ですが(自分も医療体験レビューを書いていましたが、ある時を境に検索流入が8割減って、以降全く回復していません)、おやつさんが金融(不動産)ジャンルでどこまでアクセスを増やせるのか、今後も楽しみにしています。